J BALVIN 「La Rebelión」
レゲトンのスター J BALVINが今月頭に新曲を発表しました。
今回の新曲はラテンアメリカで非常に話題になっています。それはサルサの名曲をラテン・トラップ(スペイン語のヒップホップ)にアレンジした曲だからです。
「LA REBELIÓN」 J BALVIN
この曲の最初の方に別の曲のビデオが出てきますが、これがオリジナルの曲です。
コロンビアのサルサ歌手 Joe Arroyoの「La Rebelión」です。
日本のラテンのクラブでも定番の曲で、日本のサルサファンもこの曲の出だしがかかると「おーっ」って言いますよ。
これが原曲です。
Joe Arroyo 「La Rebelion」
今回のJ Balvinの曲は、サルサの曲をラテン・トラップというスペイン語のヒップホップにアレンジしたんです。
コマーシャルソング
今回のJ BALVINの曲とビデオは、アギラというコロンビアのビール会社の為のCMソングです。アギラはコロンビアではすごいポピュラーなビールです。
これがコロンビア中で宣伝に使われたそのコマーシャル。
サルサのJOE ARROYOとレゲトンのJ BALVINを並べて、アギラのビールを持たせています。
そして最後はJOEらしき人物が、J BALVINにアギラのビールの瓶を手渡して去っていくところで終わりです。
このコマーシャルとJ BALVINの歌にコロンビアでは激怒する人が多く、炎上しニュースになってしまいました。
たとえばこのニュース。
それはなぜでしょう?
炎上の原因
このコマーシャルとJ BALVINのアレンジ曲が大炎上した理由を教えます。
それはオリジナルの曲を歌ったJOE ARROYOはコロンビアが誇るレジェンドだからです。
JOE ARROYOはサルサ界の中でも有名だけど、コロンビア人にとってはほんとうにレジェンドの存在なんです。コロンビアのカルタヘナ生まれで小さい時から才能を発揮し、コロンビアのサルサ界の大スターでした。残念ながら2012年に病気で亡くなりました。まだ50代でした。
Joe Arroyoの病気が悪化した時からコロンビアでは大きなニュースになり、亡くなったら国中が喪に服すような騒ぎでした。
それについては前に私がブログに書いたこの記事を見て下さい。
https://diafelizlatin.com/blog-entry-669.html
Joe Arroyoが亡くなったら国ではテレビニュースが中継し、ラジオ局は一日中JOEの曲だけ流してました。そしてサルサの都市コロンビアのカリでは、その年の大カーニバルのテーマはJOE ARROYOで彼の曲がテーマ曲になりました。
コロンビア人が誇る著名人で、サルサのマエストロで、大事な愛する存在なのです。
原曲とJ BALVINの曲の違い
原曲のJOEのサルサの方の歌詞は、コロンビアの黒人奴隷の歴史の話です。JOEは黒人です。
コロンビアは1600年代に他のラテンアメリカの国のようにスペインの植民地にされ、黄金の都市エルドラドといわれたコロンビアの大量の黄金はスペインに奪われました。ペルーのインカ帝国もです。エルドラドやインカの黄金はコロンビアのカルタヘナの港からスペインに送られました。
逆にスペインがカルタヘナに運んできたもの。それがアフリカから連れてきた奴隷でした。昔カルタヘナには奴隷市場があったのです。いまはカルタヘナはコロンビア一の観光地ですが、旧市街には昔の史跡がいろいろ残っていて、スペイン統治時代の街並み、そして奴隷が収容されていた場所なども残っています。
私が住んでいたコロンビアのカリ市は郊外がずっとさとうきび畑で、黒砂糖やそれからつくったラムが名産です。昔はそのさとうきびのプランテーションで黒人奴隷が酷使されていました。スペイン人の領主は大きな館に住んでいて、黒人の住むところは粗末な小屋で過酷な労働を強いられてました。
だからコロンビアは今も沿岸部やさとうきび畑があるカリ周辺などに黒人が多いのです。
コロンビアは階級社会で、人種差別もあります。黒人への差別はまだ残っています。
コロンビアの大統領など政治家や企業のトップなどは白人ばかり。でもコロンビアで一番貧困率が高い県は黒人率も高いです。
黒人の奴隷の歴史があったけど黒人差別問題はいまもこの国に続いてるという想いを、JOE ARROYOはこの曲にしたためたんです。コロンビアが今も抱える重いテーマなのです。
前にこのJOE ARROYOの原曲の歌詞を和訳して字幕をつけ動画UPしたので、これを見て下さい。
コロンビアのスペインの植民地支配の話を先にしたので、歌詞の意味わかりますよね?
私はコロンビアに住んでたから、この曲を聴くと涙出ます。
サルサを踊る方達はこの曲は激しくて楽しい曲だと思ってるでしょうが、歌詞は暗いです。
これに対してJ BALVINの方のラテントラップバージョンは歌詞がまったく違います。
最初の出だしのところは、JOE ARROYOの原曲の歌詞をとってるので、コロンビアの黒人の歴史を教えよう、というJOEの声が流れます。
でもそのあとはJ BALVINは和訳するまでもない軽い歌詞にしちゃったんですよね。
ドラッグや女性を性的な対象とする歌が多いラテントラップやレゲトンの歌詞としてはまじめな歌です。
けどJOEの重いコロンビアの黒人の歴史や差別の話とはまったく違う。JOEの想いをちゃかしたような結果になってしまった。
J BALVINはコロンビア人ですが、白人が多いメデジンの出身で見た目にわかるように黒人ではありません。
しかもJ BALVINのこのビデオには、白人、黒人、先住民族などがでてますね。コロンビアには白人も黒人も先住民族もいます。またコロンビアのバランキージャであるカーニバルも少しでてきます。
それに「Rebelion」というのは「反乱」という意味です。反乱をおこそう、とか。ラテンアメリカは昔から上への抵抗心が強い国なので。だから政府が不正をするとすぐ大規模デモおこります。
だからJoeがRebelionをタイトルにしたのは重い意味があったのに、J Balvinは自分が批判してくる人に反抗してるみたいな軽薄な内容になってますよね。
コロンビアで炎上
この曲のコマーシャルやニュースが流れてからまだ数日なのですが、コロンビアではすでにすごいJ BALVINにすごい非難の声があがり炎上してます。
などなど非難ごうごう。
でもまあ、それはコロンビア国内のことであって、コロンビア以外のラテンアメリカや、その他の地域には関係ないと思います。しかもたぶんサルサの都市のカリとかJOEの出身地のカルタヘナ等のコスタの人にこだわりが強いと思います。他国の人にとってはJOE ARROYOにそこまでのこだわりがないでしょう。
私の感想
あーあ、やっちまったね。
J Balvinがサルサの名曲のレゲトンバージョンを発表というコロンビアのニュース見て、いやーな気がしてたんです。
いや、彼はサルサわかってるのか、大丈夫なのかと。
私はコロンビアに住んでたんですが、コロンビアはサルサが盛んな国です。ラテンアメリカの各都市では今はもうレゲトンが大人気でサルサは中高年向けという事がほとんど。でもコロンビアのカリは子供や若い世代もサルサが一番人気で、サルサのプロダンサーを何千と抱え、サルサの世界の首都と自負するくらいサルサが今も盛んです。
でもコロンビアは都市により人気の音楽やダンスが違うので。J BALVINの出身地のメデジンはサルサが不人気なんです。
カリ市の人はメデジンの人にはサルサはわからない、サルサ踊れないしとバカにしてます。メデジンはいまはレゲトンの都市ですよね。
確かにコロンビアではサルサのGrupo Nicheの創始者のJairo ValeraとサルサのJoe Arroyoはレジェンドなので触っちゃいけないですよ。
そのうえ黒人奴隷の話や人種差別の話は非常にセンシティブな問題。
その二つが入ってたら炎上するに決まってる。
しかもあの名曲をトラップラティーノ(ラテントラップ)に変えて、歌詞があんな軽い内容で軽薄に見える。
この曲が単体だったらよかったんだけど、原曲を知ってる人にとっては「え」って感じです。
最初から炎上するってわかってるのになぜ大企業のアギラ・ビールがあんなことやらせたのかなあ。
日本の大企業でこのごろ流行ってる炎上商法ですかね?
コロンビア人や、コロンビアに住んでいた私にはそういうこだわりがあるけれど、他の国の人にはそこまでこだわりないでしょうし。
それにJ BALVINは今世界のスターなので、彼がトラップのリズムでサルサの名曲をとりいれたことでサルサのことも世界の特に若い世代に知られてよかったのかもしれません。
いま世界でラテンが大ブームだけど、流行ってるのはレゲトンとトラップやラテン系ダンスミュージックなどURBANA (アーバン系)のジャンルばかりだから。
ラテンアメリカでもこの10数年は大半の国で一番人気はレゲトンです。今はレゲトンとラテントラップ。サルサの国といわれているプエルトリコやキューバでもそうだし、コロンビアもサルサが人気なのはカリ市のみです。
ラテンはそれだけじゃなくてサルサもあるんだよ。コロンビアはサルサとクンビアとバジェナートの国でもあるんだよっていうカルチャーも知らせる事ができるし。J BALVINの影響力でサルサも広まったらいいなと願ってます。