Willie Colon「El Gran Varon」の歌詞和訳とLGBT問題
6年前の2011年にこのブログでWillie Colonの「El Gran Varon」という曲について宿題を出したんですが、その答えを書いてませんでした。
→ 「 Willie Colonに関する宿題」
質問に返答してくれた方が当時一人しかいなかったので。
その質問とは、WIllie Colonの「El Gran Varon」をきいて歌詞の意味はどうなのかイメージして答えてください、でした。
Willie Colon 「El Gran Varon」
よくサルサバーやイベントでかかるので聴いたことある人は多いと思います。
サルサの名曲ですね。
あるサルサイベントで 「もっと客が楽しく踊れる曲かけないと。こういう曲をさ」ってこの「El Gran Varon」をかけた人がいたんですがこの曲暗いじゃん…。しかも私は歌詞の意味知ってるから複雑な気持ちでした。
ということで、6年越しにこの「El Gran Varon」の歌詞の和訳と曲の解説をしたいと思います。
じゃ歌詞の和訳いきますよ。
(スペイン語 → 日本語)
歌詞の和訳は、もう一つのブログに移しました。
こちらのリンクをクリックして見て下さい。
http://diafeliz.jugem.jp/?eid=18
この曲で楽しくサルサ踊ってた人には、もうビックリな歌詞の内容ですよね。
この歌詞は複雑で訳すの結構難しいです。
かなり複雑なんで、今まで歌詞の和訳をネットにUPしてる人がいなかったのかもしれません。
この歌詞の翻訳はほんとはブログで簡単に和訳をUPしたくないくらい。
7年位前にメキシコにいるときにラジオでかかってて、メキシコ人が「息子がマリコンでおやじがそれを許さないうちに死んじゃった歌なんだよ」って教えてくれました。
そのあと帰ったときに歌詞を自分で訳したんです。
残念ながら当時訳した歌詞を無くしちゃったので、また今回新たに翻訳しました。
このwillie colonというサルサの歌手はサルサ界の大御所でHector LavoeやRuben Bladesなどともプレイしてた人なんだけど、Willie ColonとRuben Bladesは普段から政治的とかまじめな発言が多い人です。
説教くさくて嫌という人もときどきいるけど。
この歌には説教的な話や聖書の言葉がいろいろ出てきます。
中南米の多くの国がカトリック信仰だから、ラテンの歌には聖書の言葉や思想が出てくることはよくあります。
それから
最初に、病院で何年何月何日に生まれたというフレーズと、
最後の何年何月何日に病院で死んだ、
というところは対をなしています。
複雑な歌詞なので、私なりに解説をしてみますね。
まずタイトルの「El Gran Varon」は「偉大な男」と訳がネットにありましたが、私は違う解釈です。
男の中の男とか、マッチョな男、という意味だと思います。
中南米の社会では一般的にマチスモ文化で、男が男らしく女は女らしく、という男尊女卑的な文化が昔からあります。
男は男らしくあれというのが強い文化なので、この歌の主人公のお父さんはさらに男の中の男であれと息子に期待したんです。
この歌のお父さんのドン・アンドレスも昔ながらの古風なおじさんで、待望の男の子が生まれて、その息子はマッチョで自分のような立派な男の中の男にしようと厳しく育ててきたわけですね。
お父さんが厳しくて怖かったから、息子はお父さんに口答えもしたことがないし自分の意見も言わないおとなしい子だった。
けど大人になって海外に行ってしまい、やっと実家や口うるさい親父から離れたらシモンは自分らしさをとりもどしたわけです。
ひさしぶりに会ったシモンは、すれ違ってもお父さんが女と間違うくらい女っぽくなってた。
けどお父さんは昔からの道徳観が強い人で、「おかまやゲイなんて気持ち悪い」という人で、ましてや自分の息子がゲイだなんて許せなかった。
だから息子と縁を切ってしまう。
そしたら息子からまったく連絡が来なくなって音信不通になってしまった。
そしてついに連絡がきたと思ったら、息子が一人で病院で死んだという知らせだった。
この曲は1989年のリリース。
この歌の背景は80年代半ばだというのがポイントなんです。
歌に出てくる怪しい病気というのはHIVのことです。
80年代半ばくらいにエイズは急に話題になり、最初はいろんなデマが飛び交いました。
この歌がリリースされたのが1989年なんで、ちょうどエイズがとても話題になっていた時代です。
ゲイでエイズで亡くなった有名人もいたので(例:クイーンのフレディ・マーキュリー)、ゲイだけがエイズになるというデマもありました。
お父さんは一人息子を失って悲嘆にくれてしまう。
でももう死んでしまったから、今さら後悔しても遅いし。
お父さんは男らしく育てようとしてたけど、シモンは生まれつき気持ちは女性だった。
それを知らずにお父さんが厳しく男らしくなるようしつけてしまった。
シモンはお父さんと離れてからやっと自分らしく生きれるようになったんです。
昔からの道徳観では男は男らしくであって、家庭を築いて子孫を持たなければならない。
そういう道徳観やモラルが人を束縛している。
でも人の生まれつきのものは自然なことなんだから、それをモラルの名のもとに押さえつけて無理やり矯正することはできないのだ。
人に対して思いやりを持てないものはドン・アンドレスのように一生後悔して苦しむことになる
という内容の歌です。
歌に出てくる
「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず石を投げなさい」とか
レモンとレモネードの話はカトリックの聖書の中の話です。
「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず石を投げなさい」についてはたぶん耳にしたことがあるかもしれません。
イエス・キリストの前に姦通罪で捕まった女性が連れられてきて、あの時代は女性の姦通罪は石打ちの刑でした。
そしたらキリストが、あなたのなかで今まで一度も罪を犯したことがない人間がいるのか、まったく一生のうちに悪いことなぞしたことがないと断言できる者だけが石を打て、自分のことを棚にあげて他人を非難できるのか、と言ったらみんなが黙ったという逸話です。
だからシモンを罪深いとあなたたちは責めることはできるのか、とwillie colonは問うているわけです。
ここまでが歌の解説です。
今世界や日本でLGBTのことがニュースなどになっています。
日本はLGBTの理解がまだ遅れていて、差別もあるので自分がLGBTであることを隠す人が以前は多かった。
けれど、このごろは以前より理解が広まってきたしカミングアウトする人も多くなってきているそうです。
日本は、男は男らしくあれ、女は女らしくあれ、という教育や世の中の道徳観が強い国だと思います。
幼児の頃から男の子には車のおもちゃ、女の子には人形を買い与え、女の子には家事の手伝いをさせるとか。
流行りの「女子力」もしかり。
なんで恋人いないのか、なぜ結婚しないのかとしつこくきく人もいるけど、あれってストレスですよね。
昔の道徳観や価値観で抑圧して凹ませるのはよくあること。
ドン・アンドレスのようにね。
昔の価値観で抑圧してつぶしてしまうのはよくないと思う。
中南米はもともとマチスタの国だけど、このごろはだんだん変わっています。
同性結婚が合法という国もあります。
私がいたメキシコシティやコロンビアは同性結婚が合法です。
メキシコはまだメキシコシティだけなんだけど、全土で合法にしようと大統領が提案しています。
メキシコシティに初めて行った時、中心部で私が泊まったホテルがある繁華街で、ホテルの近くを歩いてたら男同士手をつないでるカップルが多いのに気づきました。見た目は普通の若い男の子で男二人で手をつないでいちゃいちゃしたりキスしてました。そのエリアは東京でいうと新宿2丁目みたいなエリアだそう。そしてメキシコシティは同性結婚は合法だし。
コロンビアは去年(2016年)、同性婚が合法になりました。
同性同士で結婚できるし、結婚すれば普通の夫婦と同じ法的権利が与えられます。
まあ話は長くなりましたが、つまりWillie Colonの「El Gran Varon」は古い道徳観の問題点とLGBT、という現代に通じる社会問題の話でもあると思いますよ。